SWOT分析とは、企業の環境を把握するための考え方で、企業内部の強み(S:strong)、弱み(W:weaknesses)、企業外部の機会(O:opportunities)、脅威(T:threats)を分けて考えましょうというものです。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」といった格言がありますが、己の強みと弱み、敵(外部環境)の機会と脅威を分類して書きだしましょうという事です。
そして、分類して書き出した結果、自社の進むべき方向性について示唆を得ることを目的としています。このSWOTの結果を使って、強みと機会を組み合わせて戦略を考えましょうというクロスSWOTを行ったりします。
■SWOT分析の書き方は簡単です
と、なんだか難しそうな感じですが、実際には非常に簡単に行う事ができます。
下図をご覧ください。
このように、企業内部にとって良い事と悪い事をそれぞれSとWの欄に記述し、企業外部の環境が自社にとって機会になりうるか、脅威になりうるか(つまり有利な状況なのか、不利な状況なのか)をOとTの欄に記述するのです。
そうすると、企業にとっては内部環境と外部環境について「もれなくダブりなく」(こういうのをMECE、ミッシーなどと言います)考慮する事ができるのです。
SWOT分析ってなんだか難しそうだけど、要するに企業の中と外をそれぞれプラスとマイナスに分けるってだけなのね。
でも、分けて考えると必要な要素を漏らさないし、ダブらないからわかりやすいよね。
■まずは事実を集めよう
このSWOT分析ですが、最初からS(強み)とW(弱み)、O(機会)とT(脅威)に分けて分析しがちです。
ただ、最初から分けようと考えると、SWOT分析を行うことはとても難しくなります。そのため、最初は事実を集めていきましょう。
■1.企業内部の事実を集めるための考え方
まずは自社について事実を集めていきましょう。例えば、自社の商売の流れを考えて見ます。
仕入れから販売までの流れで、他社と比べた特徴は何かないでしょうか?
例えば、仕入れ先と長年にわたって密な付き合いがあるという事実がある、在庫水準少なく管理するノウハウを持っている、接客販売のノウハウを持っているなどといった感じです。
これらの特徴は、強みだと考えがちですがこの段階では判断しないようにするのがコツです。
■2.企業外部の事実を集めるための考え方
企業を取り巻く環境については、PEST分析という考え方が活用できます。このPEST分析は企業を取り巻く環境について、政治、経済、社会、技術と言った観点から考えて見るといった考え方です。
例えば、政治的な事柄として何らかの規制が行われますが、自社の事業は既得権として保護されるなどとあれば、高い参入障壁を築くことができるといった事を意味します。
また、自社の想定顧客の所得水準が上がった・下がった、大きな道が通ったことで地方都市のベッドタウン化しつつある、IOT技術が進展しているなどと言った環境の変化を考えて行くことができます。
また、ファイブフォースモデルなども使って、競合の参入などについても考えることが可能です。
これらの企業外部の事実もこの段階では判断しないようにして、たくさんの事実をまずは集めることがコツです。
強みと弱みをいきなり分けて考えるのって難しいですよね。
そうね、だから最初は他社と違う特徴をたくさん挙げてみるのがコツよ。これは企業外部もおんなじで、何か変わったことがないかって考えてみるのよ。
特徴を出すだけならたくさん出せそうですね。
■企業内部について
SWOT分析では企業内部について集めた事実を強みと弱みに分けていきます。
■1.強みと弱みは相対的なモノです
ここで注意があります。強みと一言で言いますが、強みと言うからには競合に勝っていなければ強みではありません。逆に、弱みと言っても競合に負けていなければ必ずしも弱みではありません。
例えば、100メートルを11秒で走れる人がいたとしても、オリンピックで金メダルを狙うのであれば『強み』にはなりえませんし(9秒台で走らないと金メダルには届きませんからね。)、町内の運動会を考えれば相当な『強み』になるはずです(○○町の韋駄天と呼ばれるかもしれません)。
このように、企業内部で強みと弱みを分ける際には、あくまで競合を意識して相対的にどうなのかを考えなければならないのです。(とはいえ、一般的に強い弱いで良い場合も多いのですが。)
■2.戦略(進むべき方向)を念頭に置きながら分類します
ここが、SWOTの最大の弱点なのですが強みか弱みかは企業の戦略との関連でしか捉えられないといった事があります。
戦略をたてるためのツールと紹介されるSWOTですが、戦略がないと分類できないと言った実務的な矛盾を抱えているのです。
例えば、社長が高齢という事実を強みとして捉えるか、弱みとして捉えるかを考えて見ます。
その場合、誰をターゲット顧客にして何を売るかといった企業の戦略によって強みか弱みかが変わります。
「高齢の顧客層に上質の商品を落ち着いた雰囲気で…」といった経営戦略をとるならば、社長が高齢であるという事実は、顧客の潜在ニーズを捉える事ができやすいため強みになると考えられます。
このように、分類が主観的になってしまう傾向がありますし、実際のSWOTは経営戦略を事後的に説明するためだけに使われるという、曖昧さがあります。
このことは、解決しようがない問題なのですが、戦略的な仮定をおいてとりあえず分類してみると言った割り切りが必要です。
■3.強みが本当に強みかを判定する手法もあります
出された強みが本当に有効なのかをフィルタリングするためのVRIO分析というツールもあるので、ブレスト的にどんどん出してみても良いかもしれませんね。
ただ、このように書いても「えー、ウチに強みなんかあるのかな…」と言う中小企業の経営者は多いものです。
このような場合、現に売上を取れている理由を問うてみると良いと思います。「自社の売上があるという事は、顧客が競合ではなく自社を選んだ理由があるわけですから、それこそがあなたの会社の強みなのです。」と尋ねてみるのです。
オーナーさん、ウチは老舗のファンシーショップなんですけど、これは強みなんですか?
もちろん強みよ!ウチは強みしかないのよ!
でも、新鮮さがないから客足が伸び悩んでるんじゃないの?什器もちょっと古くなっているし。
いいのよ、競合と比べればウチの什器はまだ新しいし、競合よりも歴史があるから、お客様は2世代にわたってきてくれてるのよ。(この辺を戦略として活用したいわ)
■企業外部について
さて、難しいのは企業外部の分析です。
簡単に機会と脅威に分けてくださいとしか、このSWOT分析では言ってくれないのですが、外部の事象が機会なのか脅威なのかは、やはり自社の経営戦略との関わりでしか分けられません。
例えば、高齢化の進展は一般的には『脅威』になると考えられますが、高齢者に対応した商売を実施するのであれば『機会』になりえます。
また、一般の小売業であっても、きめの細かい配達サービスができるのであれば、高齢化の進展は『機会』になりえます。
このように、分類は中々難しいのですが、「その環境は自社にとってどうなのか」を問うていくことで機会と脅威に分けられるはずです。
こちらも企業内部環境について考える場合と同じで、経営戦略を仮定しながら分類していくと言ったことも行われます。
なお、ポジティブシンキング過ぎて、何でもかんでも機会であると考えてしまっては分析になりませんので、そこは冷静に考えてみてくださいね。
■ここまでで説明したSWOTの流れを絵にするとこんな感じです
■きれいに整理できるというメリットがありますが、デメリットもあります
このようにSWOT分析は、企業を取り巻く環境を総合的に見る事ができるという大きなメリットがあります。
企業内部だけの視点、企業外部だけの視点に陥らずに、総合的に企業を考えることができるというのはとても重要なことです。
ただし、SWOT分析は上で触れたように戦略を決めるためのツールなのに、戦略が決まらないとSとW、OとTが分類しにくいと言った弱点もあります。
そのため、迷ったら仮置きするぐらいの心構えで取り組んでください。
なんかSWOT分析って簡単で、わかりやすいけどあやふやな気がするわ。
ですよね、僕も思ったけどウチの強みが老舗って言うのは、お客様が2世代にわたっているからですが、2世代にわたったお客様をターゲットにするのは、ウチが老舗だからなんですよね。
ふふふ。その辺は飲み込むのがSWOTのお約束なのよ。