売り手市場
売り手市場とは、市場で取引されている売り物が需要に対し相対的に不足しているため、売り手側にとって有利な状況になっていることを示す言葉です。

■売り手市場の具体的状況

例えば、あなたが持っている時計をネットで販売しようとした時を考えます。

このような時に、買いたいとのオファーが殺到したならば、その中で有利な条件を探すことができますよね?特に個人的な恩や思い入れが無ければ、条件の悪い相手にワザワザ売ったりはしないはずです。

このように、売り物(供給)にたいして買い手(需要)が多ければ、売り手側の方が有利となるのです。

(最終的には、「そんなに有利なら、売り手として参入しようか」といった風に、売り手側が増えて売り手の有利さは解消されます。この辺は経済学の需要と供給が均衡するといったお話ですね。)

■人事用語としての売り手市場

さて、以上が一般的な売り手市場についての説明でしたが、人事用語、特に新卒の就活に対して売り手市場と言われる事があります。この場合の売り手は学生さん(労働力の売り手)、買い手は企業側(労働力の買い手)になります。

というのは、新卒の就活はどれだけ企業側の需要が増えても供給が増えることは基本的にはありませんし、どれだけ企業が採用を絞っても、供給が減ることがないので、売り手市場や買い手市場になりやすいのです。

(需要が多いから前倒しで学校を卒業しようとか、需要が少ないから学校の卒業を控えようといった事はあまりないですよね?(全体の一部は進学といった行為で調整されます))

という事は、供給は常にほぼ一定で需要のみが増減する。つまり、売り手市場や買い手市場は就活生には何の責任のない外部的な事象なのです。

関連用語
買い手市場

■売り手市場では中途採用や転職でも、求職者側が有利になるか

新卒採用については、このように売り手市場となっていますが、中途採用や転職市場ではどうなるでしょうか?

これは、企業側の考えを想像すればある程度見えてくると思います。

それは、

新卒の採用が上手くいかない→それならば中途採用に力を入れよう→企業間での争奪戦激化

といった流れです。

採用市場全体は一つの大きな市場であることから、中途採用や転職市場に置いても求職者側が有利となるです。

その証拠に一昔前(本記事を最初に書いた2015年当時はそこまでではなかったですが、2000年代においては)転職35歳限界説などが語られていました。しかし、2025年において転職が35歳で限界だなどとは求職者も企業も考えていません。

■売り手市場には労働環境を恒久的に変えるインパクトがあります

このようにそもそも新卒採用が難しくなり、転職市場が活性化している状況では、新卒初任給をあげたり処遇の改善を行うなど、労働市場で人材という経営資源を調達するための競争が行われています。

そのため、一昔前の日本企業のように従業員を使い潰す的な「ここで通用しなかったら何処へいっても上手くいかない」といった働く人の足元を見るような、労務管理はすでに過去の遺物です。

そのようなことをしていると、評判が悪化し従業員の採用に苦労したり、何より、今いる従業員さんが転職してしまい人手不足で大変なことになります。(レピュテーションリスクといいます)

そのため、邪悪な労務管理は市場原理で淘汰されるというわけです。

■企業側の採用戦略はどうするか

身も蓋もない言い方をすれば、少なくとも競合他社と同じだけの報酬と処遇を用意して・・・となりますが、すでに中小企業の労働分配率は以下の表(中小企業の人件費および労働分配率の推移を示したものです。赤線は労働分配率であり、既に非常に高水準であることがわかります。)のようにかなりの水準となっており、もはや賃上げ余力は乏しいと考えられます。
 中小企業白書_労働分配率
出典:2024年度版_中小企業白書 中小企業庁
図表からは、中小企業の労働分配率は一貫して高止まりしており、獲得した付加価値の殆どをすでに従業員に配分しているのです。そのため、そのためそれができたら苦労はしないでしょう。

その場合は、「働いてくれれば我が社で〇〇といったキャリアを積むことができる」とか、「我が社の理念は」とか「不効率な働き方を廃止して、早く帰れるようにしています」などで訴求を図る必要があるでしょう。

いずれにしても、人口動態調査からは生産年齢人口が減少し続けることがわかっていますので、人手不足傾向は今後も変わらないと考えるのが妥当です。

そのため、昭和的、平成的な労務管理からパラダイムシフトし、働きやすい職場と成果をちゃんと上げることができる職場を両立させる必要があるのです。

初出:2015/02/17
更新:2025/07/13