優越的地位の濫用_001
優越的地位の濫用とは、取引を行う上で力関係が強い方が弱い方に対して不利益を与える事を言います。文字通り、優越的地位(力が強い事)を濫用するといったイメージです。

例えば、大手小売チェーンが商品の供給者に対して非常に優越的な地位を持つことは想像できると思います。

この大手小売りチェーンが、「棚卸を手伝わないと購入を取りやめる」とか「売れ行きの悪かった商品を無理やり返品させろ」、「消費者に割引販売を行った商品の仕入れ代金を支払う際に、割引額を支払代金から差し引きたい」などの要求してきたらどうでしょうか?

商品の供給者はこのような要求を断れるでしょうか。なかなか難しいですよね。

そのため、優越的地位の濫用は行ってはならないとされています。現在では、公正取引委員会は独占禁止法を根拠に、課徴金(罰金のイメージですね)の納付を命じることができます。

■よくある濫用行為の類型(5つ)

取引関係ができると自ずと力関係の差が出てきます。そのさい、どのような行為がこの優越的地位の濫用に該当するかを知っておくことは有用です。

よく挙げられる類型は以下のとおりですが、優越的地位の濫用という言葉にピッタリの、力の強い側が弱い側に押し付けるイメージが掴めると思います。

1 不当な返品(売れ残り商品など)

2 無償での役務提供要求(棚卸し・陳列など)

3 一方的な代金減額(割引分の負担を供給者に強制)

4 支払遅延(資金繰りへの悪影響)

5 協賛金・広告費の負担強要

■優越的地位の濫用が発生しがちな取引関係

上記のような不当な要求が以下のような関係性で生じがちだと言われています。

例えば、『大手流通⇔中小メーカー』、『フランチャイズ本部⇔加盟店』、『出版社⇔著者・フリー編集者』、『ECモール運営会社⇔出店者』などです。

これもイメージ通りだと思いますが、このような取引関係を構築する場合の防御策も示します。

■守る側のポイント1:契約書が生命線

一度このような力関係ができてしまうとなかなか脱することが難しいですが、しっかりと「明文化された契約≒契約書の整備」を行うことで契約外の要求に対抗することが可能となってきます。

例えば、あるメーカーが大きな小売業に納品した際、「陳列はオタクがやってくれるんですよね?」と契約にないことを言われたときに、契約書を明確にしていれば対抗しやすくなります(対抗できるとは言っていません)

■守る側のポイント2:雇われ人の心理をつく

大抵の場合、大きな企業側の交渉相手はいわゆる雇われ人です。そのため、交渉相手の組織人としては極めて強い立場にいても、個人としては不適切な言動を行う事ができないという弱い立場にもあります。

ですので、あまりに理不尽な要求をしてくるようでしたら、組織としての要求であるか?をやんわりと聞いてみるとトーンダウンする可能性もあります。

■守る側のポイント3:組織リスクをほのめかす

組織ぐるみで理不尽な要求をしてくると、公正取引委員会がやっている「優越Gメン」といった組織もありますし、公表されたりすると組織自体の評判が著しく悪くなるリスクがあります。

結構大きなダメージになるため、このような公表は避けたいと考える組織がほとんどのはずです。

もちろん、このような伝家の宝刀を抜くのは現実的には難しいですが、交渉材料としてありうるということは覚えておくとよいです。

■攻めすぎた場合のリスク(購買担当側への注意喚起)

逆に購買担当側で優越的地位を濫用しようとしている場合、相手先はこのようなカードを切ってくる可能性もありますので注意が必要です。

あなたの交渉相手も立派なビジネスパーソンですし、あまり理不尽な要求をすると、あなたのキャリアを破壊する事も辞さない反撃をしてくる可能性もあります。

上に挙げたような反撃を直接上長にやられるとかなり厳しいですよね?特にあなたの要求が相手側に議事録等としてメモが残っていたりして、その上で公正取引委員会に告発などされると窮地に立たされる危険性があります。

ですから、相手を尊重した取引を行う必要があるのです。

■長期的には商品力・交渉力がカギになります

長期的には、力関係は「取引の継続性・取引量の依存度」、「取引の代替先を見つける困難性」などで生じてきますので商品力を磨いて、力関係を自社に有利な方にかたむけていく努力が重要です。

初出:2012/09/11
更新:2025/06/17