経験曲線とは、累計生産量の増加とともに製品一単位当たりのコストが逓減(ていげん:次第に減る)するという経験則です。
BCGは、製造コストばかりでなく、管理、販売、マーケティングなども含んだ総コストにもこの現象が当てはまり、1つの製品の累積生産量が2倍になるにつれ、総コストが一定のしかも予測可能な率で低減する事を実証研究によって発見している。それによると、累積生産量が倍増するごとに、総コストは20%から30%ぐらいずつ下がっていくという事が明らかにされている。
(注)
これは、まんがにあるように、
1.習熟効果
習熟によって労働者の能率が向上します。
2.職務の専門化
職務が専門化され、作業方法が改善される事によって能率が向上します。
3.生産設備の能率向上
当初の生産設備から改善が行われ能率が向上します。
4.標準化
製品が標準化されていく事によって能率が向上します。
などの要因が複合しこのような経験曲線効果が得られるのです。
そして、この経験曲線効果からから導かれるシナリオは、
低価格で需要を喚起
↓
競争相手に対して相対的シェアを高める
↓
累積生産量の差を拡大
↓
費用面での優位性拡大
↓
高い利益の獲得
という事になります。
もうひとつ製品ライフ・サイクル理論と合わせてPPMという理論が導かれるのですが、こちらは後日解説いたします。また、このような効果があるため、先発優位という考え方が存在するのです。
(注)大月博司・高橋正泰・山口善昭(2001).経営学―理論と体系― 同文館
- 経験曲線効果の活用
さて、この経験曲線ですが中小企業の経営に具体的にどのように役立つのでしょうか?経験曲線効果を享受するために、低価格にして素早く累積生産量を増やすと行った戦略を実行すれば良いのでしょうか?
ここでYesと考えた方は少し立ち止まって考えてみてください。一般的に経営資源が相対的に乏しい中小企業は安売りをすることはセオリー違反であるとされています。
それがなぜかというと、一度下げた価格を上げることは実務上とても難しく、安易な値下げは文字通り命取りになりかねないからです。
また、仮に先行して生産を行い、経験曲線効果で優位性を確立していても、大企業が規模の経済を活用して一気に製造をするとコスト優位性が消失してしまいます。
そのため、経験曲線効果だけを見越して新製品を安く販売するといった行動はあまりおすすめできないのです。
- 条件を見極める
しかし、競争相手が同規模の企業であれば十分に経験曲線効果を享受することが可能です。
また、中小企業であれば採算が合うが、大企業が容易に参入してこない分野といったものも存在しています。
例えば、極めてニッチで市場規模が数億円程度の分野には、大企業はなかなか参入することが難しいということができます。
このような分野では競合よりも市場シェアを大きく確保し、累積生産量を伸ばしていき、経験曲線効果を享受しながらコスト優位性を確立していくことが重要になります。
- 逆に
このことは逆に、すでに圧倒的なシェアを確立している競争相手がある分野への新規参入が難しいことも示唆します。
同様の規模の競争相手の場合、活用できる経営資源にも大差がないため、その競争相手が存在している分野では、経験曲線効果が決定的に重要である可能性があります。
技術的に参入可能であったとしても、競合企業は相当な累積生産量を誇っており、新規参入の自社では太刀打ちができないぐらいの低コストで生産をしているかもしれません。
競争相手にとって自社が脅威だとみなされた場合は、自社が新規参入した途端に大幅に価格を引き下げてきて全く採算が合わない状態にされる可能性すら存在しています。
そのため、もし競合企業がすでに存在している分野に新規参入をする場合は、真っ向から対抗するのではなく、別の価値を顧客に提案するなどの工夫が必要となるのです。