行政書士や中小企業診断士といった資格を持っていると、どちらが難しい資格であるか、どちらが就職や転職、独立に有利であるかといったことを言われることがあります。
今回は、両方の資格を持っている筆者がどちらの試験のほうが難しかったかについて述べていきます。
なお、本記事はあくまで筆者の主観です。また、筆者は、行政書士は独学で取得しましたが、中小企業診断士は資格専門学校の力を借りました。その辺の事情も難易度の判定に影響するかもしれません。
■まずは合格率という客観的な事実を見ます
難易度比較として、まずは客観的な事実から述べていきます。行政書士の合格率推移
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
平成27年 | 44,366 | 5,820 | 13.1% |
平成26年 | 48,869 | 4,043 | 8.2% |
平成25年 | 55,436 | 5,597 | 10.1% |
中小企業診断士(1次試験)の合格率推移
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
平成27年 | 13,186 | 3,426 | 26% |
平成26年 | 16,224 | 3,207 | 23.2% |
平成25年 | 16,627 | 3,094 | 23.5% |
中小企業診断士(2次試験)の合格率推移
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
平成27年 | 4,941 | 944 | 19.1% |
平成26年 | 4,907 | 1,190 | 24.3% |
平成25年 | 4,907 | 915 | 18.5% |
直近3年間の合格率の推移は上の通りとなっています。このことから、中小企業診断士のストレート合格率(一次試験二次試験ともに一気に合格)は双方の試験を一気に通る必要があるため、例えば平成27年度では
26%×19.1%なので4.96%ほどとなります。
このように書くと「合格率は中小企業診断士のほうが行政書士よりも低いから難易度は中小企業診断士のほうが高いはずだ」と考える方もいると思います。
しかし、診断士試験の場合、一次試験には科目合格制度があったり、一次試験の合格者は2年間二次試験を受けられるなど、必ずしもストレート合格を前提としていない試験制度となっています。そのため、合格率だけで判断するのには無理があると考えられます。
■学習量は
では学習量ではどうでしょうか?■中小企業診断士の学習範囲
中小企業診断士試験では一次試験で「経済学・経済政策」「財務・会計」「企業経営理論」「運営管理」「経営法務」「経営情報システム」「中小企業経営・中小企業政策」の7科目が問われます。また、二次試験では4つの分野からなる論述式の事例問題が出ます。そして、その論述試験に合格したのちに、口述試験も課されます。
このように書くと非常に膨大な分量であるように思われますね。しかし、一次試験の一つ一つの科目の難易度は、筆者は大学一二年で学ぶ一般科目レベルであるように感じました。
とにかく範囲が多岐にわたっていることを除けば、難易度自体は決して歯が立たないレベルではないと思われます。また、二次試験は一次試験で学んだ内容の知識を使って、事例に対して回答するといった試験ですので、極めて高度な内容であるといった印象は受けませんでした。
■行政書士の学習範囲
これに対して行政書士試験では「憲法」「行政法」「民法」「商法・会社法」「基礎法学」「文章理解」「政治・経済・社会」「情報通信・個人情報保護」といった内容が問われます。また、「行政法」と「民法」は一部が記述式の問題となっています。
このような試験科目の構成から行政書士試験は法律分野を広く学ぶ試験であるということができると思います。
■テキストで比較すると
さて、このような試験分野ですが、分野が違いすぎて判断がむつかしいですよね。そこで一つの指標としてテキストの分厚さで比較してみます。まず、中小企業診断士ですが手元に残っている資格受験校のテキストを見ると、一次試験は約300ページぐらいの冊子が7科目分、二次試験用で1冊の計8冊。
単純に計算すると
300×8なので2,400ページほどになります。
軽く絶望感を覚える分量ですね。
これに対して、行政書士試験のテキストは独学時に使ったLECのテキストで750ページほどでした。行政書士試験のテキストにはそれほど絶望感を覚えなくても済みそうです。
■中小企業診断士は
と、これだけ書くと、中小企業診断士試験のほうが難易度が高いと判断されそうですが、中小企業診断士試験には難易度を引き下げる要素があります。というのは、診断士試験の内容については働いている人ならば、かなり馴染みのある内容が多いということです。
そのため、まったく新規に取り掛からなければならない内容はテキストの分量ほどではないと考えられます。また、学習した内容を日々の仕事に生かすことを心がけていけば、仕事自体が学習となるので、純粋な学習時間は圧縮することができるでしょう。
つまり、学習してみるとテキストの分量ほどには体感的な難易度は高くないと感じると思います。
■行政書士は
これに対して行政書士は、一般的な仕事をしている方にとってはほとんど新規分野の学習となります。例えば、一般のビジネスパーソンは憲法についてそこまで意識しませんし、有名な判例で「TBSビデオテープ押収事件」とか「苫米地事件」などと言われても、何のことかわからない人がほとんどだと思います。民法や商法・会社法の分野ならば若干は知っているかもしれませんが、その知っている内容もほんの一部のはずなので非常に苦戦するはずです。
そもそも、法律の言葉遣いになれるところから始めないといけないと思うので、慣れるまでの体感的な難易度は非常に高いと思われます。
■主観的には
ここからは筆者の主観的な難易度について述べていきます。私は中小企業診断士を先に合格し、そのあと行政書士試験を合格しました。中小企業診断士は資格予備校を利用して、一発で一時二次試験ともに合格。行政書士試験は独学で二回受験した(つまり一回落ちた)といった感じです。
■行政書士試験は苦労しました
上で述べた通り、中小企業診断士試験にも経営法務といった科目があるので、法律については学んだことがあるといった状態で行政書士の学習をスタートしました。また、テキストの分厚さからしても、半分以下なので正直最初は行政書士試験なんて独学で楽勝でしょうと思っていました。
しかし、この考えが大間違いでした。まず、法律の言葉遣いへのアレルギーは少ないほうだったのですが、テキストを読んでも読んでも全然頭に入って来ません。
長く読んでいると意識が遠のき、読んでいるところが分からなくなるといった経験も何度もしました。
これは完全に学習者の特性の問題ですが、とことん苦労した覚えがあります。
■筆者の主観では
筆者の主観では、中小企業診断士試験も行政書士試験も難易度的にはそれほど変わらないと感じています。なんといっても行政書士試験は一度不合格の憂き目にあっていますので、どうしても難しかったと判断せざる負えません。(これで難しくなかったというとただの強がりになってしまいますから。)
そのため、どちらの資格試験を受けるかについて検討している方には、「どちらも難易度的にはそれほど変わらないよ」というアドバイスを贈ります。
難易度がそれほど変わらないので、後はどちらを受けるか考えている方が独立開業を目指すのか、キャリア戦略上資格を活かしていくのかといった個別の要件になってくると思います。
ただ、どちらもそれほど難易度的には変わらないのですが、士業の資格を持っているからこそ言えることがあります。
というのは、士業の資格を持つと単に雇われて働いているときとは、見える景色が変わってきます。あなたが望みさえすれば、士業の資格を持っている人と交流を持つのは比較的簡単になりますし、組織にやとわれているだけでは中々知り合うことがむつかしい、様々な分野の人と知り合うこともできます。
特に、学生さんや若いビジネスパーソンの方には時間に余裕がないかもしれませんが、一つでもそういった資格を取っておくことをお勧めします。
本記事を読んで資格に興味を持たれた方は、筆者の経験を基に書いた学習方法についての記事がありますのでご参考にしてください。
また、「資格を取ったそのあと」を考えている方は、
開業ナビというサイトも運営していますのでご参考にしてくださいませ。